東京高等裁判所 昭和30年(行ナ)38号 判決 1956年3月31日
原告 金本東吾
被告 特許庁長官
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
事実
第一請求の趣旨
原告は、「昭和二十七年抗告審判第七〇二号事件について、特許庁が昭和三十年八月一日にした審決を取り消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求めると申し立てた。
第二請求の原因
原告は請求の原因として、次のように述べた。
一、原告は、昭和二十六年一月十九日その発明にかゝる「ジヤツキピストンの昇降により自然電気の発電装置」について特許を出願したところ(昭和二十六年特許願第一五三六一号事件)、昭和二十七年五月三十一日拒絶査定を受けたので、同年七月十二日抗告審判を請求したが(昭和二十七年抗告審判第七〇二号事件)、特許庁は、昭和三十年八月一日原告の抗告審判請求は成り立たないとの審決をなし、右審決書謄本は同月十二日原告に送達された。
二、審決はその理由において「従つてこれらの装置を用いても動力を発生し、或は増大し得ないことは明らかである。従つて原査定には何ら不当なところはなく、抗告審判請求人の主張は物理学の法則に沿わないものであるから妥当なものと認め難い。」と述べ、従つて原告の発明は、特許法第一条の特許要件を具えないものと認めるとしている。
三、しかしながら、原告の発明の詳細な説明は、(10)の複動ジヤツキピストンの昇降により自然電気の発生装置で、(1)の外部の始動スイツチ(各種動力器関を利用)結線すると、(10)の器関は始動から本回転すると、(1)のスイツチを切り放しても(2)の電気モーターは作用している。(3)の心軸は作用して、(11)の右立傘ギヤの作用は、前後自由回転で(3)に附随されている(ロ)のクラツチ(凹臍)に(19)の(イ)のクラツチ(横動切替器)の(凸臍)は、(14)の延回凸凹切替器により、(17)の二本立棒の左剣刃の先に突き替えされて入り組み合つて、(12)の複動ジヤツキシリンダーの元に固定されている傘ギヤは右に回転し、(4)の複動ジヤツキピストンは(6)のクランクと共に上方指で作用し昇り行くと、(5)のクランクシヤフトに固定されている(14)の第一ギヤも共に左へ半回転延回し、(7)の自由回転ギヤ類(差動装置)は、大小(モロ)型で、(5)と(8)の横棒の心棒とに附随されて、上下共に歯車と歯車が組み合つて(7)の第二ギヤの回転数は二回転、第三ギヤの回転数は四回転、第四ギヤの回転数は八回転、第五ギヤの回転数は十六回転、第六ギヤの回転数は三十二回転して行くといつたように、最終の第六ギヤは、(8)に附随されてパイプのシヤフトであつて急回転すると、(9)の発電器は作用し、電気は発生する。電気が発生するには一秒間に発電器は、二十回転するようにした(7)の差動装置を(4)の力量は経て、(9)の発電器は自然科学電気を発生する瞬間の作用である。
(9)の発電器の電気は、(2)の電気モーターを作用させ、(5)のクランクはこれで半回転の上方を指て作用すると、(14)の延回凸凹切替器により、(17)の右剣刃の先に(15)の右横動切替器は作用連絡し交互に突き替えされること、(13)の右立傘ギヤに固定されている凹臍クラツチは抜けて、(18)の左クラツチの凸臍は入り組み合つて、(12)の複動ジヤツキシリンダーの元傘ギヤは左に回転すると(4)の複動ジヤツキピストンは下方を指で降下して本回転はこれで一回転の作用を終了と同じ複動作用を何回となく繰返すといつた作用は、自然停止を防止するように創造(希有)の(10)は世紀的の動力を発明したもので、この要旨は、理論物理学の法則を超越した「新理論物理の法則」を発見によつて無燃料動力器関は回転する創造である。
従つて審決が前述のように述べて原告発明を特許要件を具えないとしたのは、原告の発明が、
(一) 本件の器関を始動し回転すると無燃料で回転し、自然停止を防止するようにした器関の発明であること及び
(二) 本件の器関の作用は、科学的「動力」発生と、科学的「電気」発生との二種に応用できる器関であることを認識しないためであつて、右審決は違法として取り消されなければならない。
第三被告の答弁
被告指定代理人は、主文同旨の判決を求め、原告主張の請求原因事実に対し、次のように述べた。
一、原告主張の請求原因一及び二の事実はこれを認める。
二、同三の主張については、これを否認する。
原告はその明細書において、本件特許出願にかかる装置が、燃料を用いないで動力を発生し、あるいは小さな動力をジヤツキピストンに与えてこれを昇降させ、この運動をクランク軸と歯車装置によつて発電機に伝えることによつて、動力を増大させることができると主張している。
しかしながら、物理学の法則によれば、動力とは、単位時間にどれだけの仕事がなされるかという割合であり、仕事とは力の作用によつて力の作用点が力の方向に動いた距離とその力との積である。またエネルギー不滅の法則によれば、エネルギーは消滅することもなく、またこれを造ることもできないものである。そしてエネルギーとは仕事をなしうる能力であり、その大きさは仕事と同じ単位、すなわち力と距離との積の単位によつて表わすことができる。
この法則に照して、本件特許出願にかゝる装置に、ある大さのエネルギーを与える場合を考えると、この装置はそれに作用した力fより大きな力Fを他の物体に作用しうるが、この場合に後者の力Fの作用点が動く距離Sは、前者の力fの作用点が動く距離Sに対して、前者の力fと後者の力Fとの割合すなわちf/Fの割合で縮少されている。
これを式で表わせば
S=sf/F
であり、従つて
SF=sf
この式で明なように、この装置に与えたエネルギーによる仕事SFは、この装置が他の物体に作用した力による仕事sfと等しい大きさであつて、この装置が動いている間に、仕事あるいはエネルギーは少しも増大されていない。またこの装置に初めにエネルギーを与えない場合は、SF=0であるからsf=0であることは明白である。
従つて本件の装置によつて動力を発生しあるいは増大することはできない。
次に明細書中において、原告は現代物理学の法則を認めないで、別の法則によつて動力を増大することの可能性を主張しているようであるが、この別の法則が正しいことは、何ら立証されていないので、被告はこれを認めることができない。
また、原告は、本件装置の具体的の構造について色々説明して動力増大の可能性を論じているが、すでにその出発点において、物理学の法則に沿つていないので、その結論が妥当でないことは、当然のことである。
第四証拠<省略>
理由
一、原告主張の請求原因一及び二の事実は、当事者間に争がない。
二、その成立に争のない甲第四号証によれば、原告の出願にかかる発明は、ジヤツキの原理をピストンに応用し、これを発電装置に利用し、かつ歯車装置、聯軸装置等を併用して、始動後は、燃料その他外部からの動力を補充することなく、不断に発電を継続することを目的とする発動装置であることが認められる。
しかしながら仕事の量は、物体に作用する力と力の作用によつて力の作用点が力の方向に動いた距離との積によつて表わされるところ、ジヤツキの原理に応用すれば、これに作用した力より大きな力を他の物体に作用することができるが他面力の作力点が動く距離は、力の大きくなつた割合と同じ割合で縮少され、ジヤツキに作用した力による仕事と、ジヤツキが他の物体に作用した力による仕事とは等しい大さであることは、現代における物理学上明白な理論であり、歯車装置を応用する場合も、これと全く同様に、仕事の量を増大することはできない。
してみれば、原告が本件発明の要旨とする、ジヤツキ及び歯車の装置をピストンに応用して、右仕事の量の単位時間における割合をいい表わした動力を増大し、燃料その他外部からの動力を補充することなくして、不断に発電を継続させることは、現代における物理学上不可能とされているところであり、しかも原告は自己の右発明の実施が可能であることについて、何らの証明をもしていない。
してみれば原告の出願にかゝる発明は、その実施が不可能であるものと認めるの外なく、特許法第一条にいう工業的発明には該当しないから、これと同趣旨の審決は相当であつて、違法ということはできない。
よつて原告の本訴請求を棄却し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のように判決した。
(裁判官 内田護文 原増司 高井常太郎)